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鳥の歌

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 ファミ・アルカイという人のヴィオラ・ダ・ガンバ演奏会に行ってきた。
 「鳥の歌」に泣いてしまった。カザルスが国連デーで「私の故郷の小鳥たちは青い空でpeace peaceと鳴くのです」と言って演奏したという、あの有名な「鳥の歌」だけれど、なんと違う演奏だろう。鳥のさえずりを思わせる導入部が、かすれた小さな音で始まった時から、演奏者の意思が伝わってきた。カザルスの時代には、まだ鳥たちは「平和」を声にしてさえずることが出来たのだ。でも今、鳥たちがpeace peaceと鳴こうとすると、たちまち爆撃機の轟音にかき消されてしまう。それでも、弱々しくかすれた声でpeaceと鳴けば、途端に重低音が容赦なくかぶさってくる、そんな演奏だった。なぜだか、戦場となっている土地で爆撃におびえる子供達の様子が胸に浮かんできて、泣いてしまった。
 会場で購入したCDの「鳥の歌」は、また全く違っていた。静かな追憶の中から流れ出るような音で始まり、フラメンコの歌い手が「鳥の歌」を唱う。朗々と唱っているのにどこか物悲しくて、歌にからまるように演奏されるヴィオラ・ダ・ガンバは、不安な音色を響かせているけれど、演奏会でのあの胸に迫る凄さはない。
 ライナーノーツを読んでいてびっくりしたのは、「鳥の歌」は子守歌だということ。私は、スペインのカタルーニャの民謡だとしか知らなかった。でも、もっと驚いたのは、ファミ・アルカイは父がシリア人、母がパレスチナ人で、スペインに生まれたということ。この人は「鳥の歌」を演奏し続ける宿命を持たされた人なのだろうか。
 ヨーロッパの古楽の演奏なのに、どこかしらアラブ的な音色が感じられたのも納得がいった。ヨーロッパ各地の音楽院で研鑽を積み、いかにも正統派古楽の演奏をきっちりしてみせる一方で、自分の手で編曲する時には自分の血の中に流れる音色を堂々と表に出すことを厭わない。その姿勢も私は好きだ。それに、この人はヨーロッパの古楽とか何とか言う前に、ヴィオラ・ダ・ガンバという楽器が好きでたまらないのだろう。好きだから、楽器が持っている音をとことん生かそうとする。他の人がしないような弾き方で楽器の潜在能力を引き出す。好きだなァ、こういう人。 

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