『空気としての建築』〈石上純也〉
建築を美術として鑑賞するのが好きなので、新聞を読んでいても建築に関わる記事には目が行く。ベネチア・ビエンナーレ国際建築展の記事と共に掲載されていた写真に視線を吸い寄せられた。石上純也氏の作品「空気としての建築」が会場に使われた古い造船所の煉瓦の柱と一緒に写っている。金獅子賞を受賞したというそれは極細のカーボン製の柱で出来た仮設建築で、完成から数時間後には倒壊したのだという。
この写真を目にした瞬間「立原道造だ。」と思った。まるで「石柱の歌」が可視化されたようではないか。堅固に立ち続けている煉瓦の柱のざらついた表面と、己自身をさえ支え切れずに倒壊するカーボン製の柱は、双方が辛うじて同時に柱として存在していた数時間の間、その空間に詩を抱いていたのではないか。