* 三木卓の「せみとぬけがら」
初めてこの小品に接した時の驚き。これは何なのだろう、何を描いているのだろう。ただ単純な蝉と 抜け殻との話ではない、何かの暗喩であろうことを強く感じさせるのだが、何なのか解らない。童話の形で書かれていながら、救いようのない虚しさと怖さ。最 後の一行「ひがおちて あたりは うすあかいやみです。」という言葉から滲んでくるおそろしさは唯事ではない。三木卓の文章に出会ったのは翻訳絵本の「火 曜日のごちそうはひきがえる」で、私は彼の詩も小説も読んだ事がなかった。
詩集に目を通してみて、漸く少しわかった気がした。
彼は父親になったことで、自分と自分を取り巻く世界とを肯定する、ずっと抱え続けている闇を消化し、作品として昇華できるようになったのだろうか。